あらなくに(美学空間)

    


 あらなくに - 折り合い付け


    意味から入ってはいけない。
       従来文法から入ってもいけない。
       「あ・ら・な・く・に」 
       このことのはを音韻に載せ、 指先にまで通し、
       そして全身へ落としこんで受け止める。すると
       そこへ、初めて開いてくる豊穣な世界がある。

       宇宙の隙間のやうな……。
       原始宇宙の尻尾のやうな……。


■歌座文法
世界と折り合いを付けていく際に働くロゴス。
「あ・ら・な・く・に」には、自分自身の置き所をめぐって
拘泥したり、詠嘆してみたり、
オトシどころには
様々な調整心理の先験的法則が働いている。



事例集 - 
舞踏の身体空間   大野 一雄「おかあさん」

美術空間      制作中
現代文学空間   綿虫ではあらなくに… 鴻司
古典文学空間   万葉集以降の和歌多数。



       


 ■従来文法
「活用連語」
  @そうではないのに。そうではないことなのに。
 
あらなく-に ラ変動詞「あり」の未然形「あら」
+打消の助動詞「ず」の未然形「な」+接尾語「く」,
詠嘆の助詞「に」。
 Aないことよ,と詠嘆を表す。(*あら-な ラ変動詞「あり」の未然形「あら 」
+願望の終助詞「な」。,あって欲しい。ありたい,の意。


     万葉集より

      

163挽歌,作者・大伯皇女,大津皇子,歌語り,哀悼,飛鳥

[原文] 
神風<乃>  伊勢能國尓<母>  有益乎  奈何可来計武  君毛不有尓


[訓読] 
神風の 伊勢の国にも あらましを 
         何しか来けむ 君もあらなくに



伊勢にいたほうが良かったのに
……。
万葉仮名 参考
「孤悲 ? 不有国」
こひにあらなくに=恋にあらなくに
(「に」は常用漢字にないから表示不能)



164;挽歌,作者:大伯皇女,大津皇子,歌語り,哀悼,飛鳥
[題詞]
(大津皇子薨之後大来皇女従伊勢齋宮上京之時御作歌二首)

[原文] 
欲見  吾為君毛  不有尓  
         奈何可来計武  馬疲尓


[訓読] 
見まく欲り 我がする君も あらなくに 
          何しか来けむ 馬疲るるに

 

[仮名] 
みまくほり わがするきみも あらなくに なにしかきけむ うまつかるるに



あなたはいないのに、なぜここへ来てしまったのだろう。馬が疲れるのに……。


166;挽歌,作者:大伯皇女,大津皇子,歌語り,哀悼,二上山,飛鳥

[題詞]
(移葬大津皇子屍於葛城二上山之時大来皇女哀傷御作歌二首)

[原文]
礒之於尓  生流馬酔木<乎>  手折目杼  令視倍吉君之  在常不言尓

[訓読] 
磯の上に 生ふる馬酔木を 手折らめど 
       見すべき君が 在りと言はなくに

 

[仮名] 
いそのうへに おふるあしびを たをらめど みすべききみが ありといはなくに


あなたがいると、 だれも言ってくれないのに……。




出典:[万葉集3]265/267

苦しくも降り来る雨か神の崎
      狭野の渡りに家もあらなくに

 



         古今和歌集より

         



  巻四

題しらず 読人知らず

186
我がために くる秋にしも あらなくに
          虫の音聞けば まづぞかなしき






  巻八

人を別れける時によみける 紀貫之

381
別れてふ ことは色にも あらなくに
           心にしみて わびしかるらむ

 



  巻十二

題しらず 紀貫之


597
我が恋は 知らぬ山ぢに あらなくに
            惑ふ心ぞ わびしかりける





  巻十四

題しらず 小野小町

727
海人の住む 里のしるべに あらなくに
         うらみむとのみ 人の言ふらむ

 


 一音マトリックス

あ    希望
らァ   前だしの調子
なァ   勇み足。不安。不安定な一歩。
くゥ    詰まる。押し返される。
にィ    絞る。広がる。主張を通す。


身体語・モノコト言語から、一音一音に意味のある「基語」を演繹。
そこで、基語の成立にあたっての方法論を分析、推量、確定。
現代美学空間へフィールドバック。

     
「もの・こと」美学の基本を、
身体や自然に関係づけた先人の命名法から学ぶ。
その方法論はあきらかに、印・中・韓・欧と異なっている。
古代の命名方は、比較言語学の機能的な捉え方はしていない。
「もの・こと」の姿を単純に、素直に、ありのまま、
自然と区別せずに、言葉にしている。(ハ)
これは、わたしたちの現代美学の参考となる。


a あ 大きい、多い、太い、長い、高い、偉大な、新らしい、早い、存在
raら 中心にある、穀、物、米
riり する状態、・するもの
ruる する行為、・するもの
naな    (大きく、偉大では、高く、存在し)ない
kwuくぅ 組み合わせる、入る
kwoくぉ 中心、基の、軸のある
くぉあ=kЭ音 逆の状態 (行為)、変る
kwiくぃ 元のものを裂く
niに 確かではない
nwiぬぃ 広くない、狭い
nyiにぃ 柔らかくない、固い、新らしい


身体語より  
〔あ=うぉ=wo〕「下の方の」
〔お=あ=a〕「長い」
〔ら=ra〕「真ん中」
〔く=くぅ=kwu〕「入る」「入れる」   口/倉
〔く=くぅ=kwu〕「組み合わせる」 首

           
〔も=mo〕「本当に小さい」
〔い=いぃ=yi〕「やさしい、かわいい」〕「柔らかい」



修練した古典手法で、一音を深読みする。
  漢語と、和語の判別能力をさらに、
  グレードアップすること。

ひらがなの空間能力もさらに向上させる。
「も」のようなボカシ用語を採集。
J-POPから「あらなくに」「ボカシ」用例探す。


    「も」
   「は」確定的な判断。対し、「も」は不確定な判断。
   「も」 - 不確定で、判断できない。 - 詠嘆。



            

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歌座 美学研究所
  2008年4月27日
    長谷川 有  
 E-mail : hasegawa@utakura.com



          
                  
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