古今集
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やまとうたは、人のこころをたねとして、よろづのことのはとぞなれりける、世中にあ る人、ことわざしげきものなれば、心におもふことを見るものきくものにつけていひい
だせるなり、花になくうぐひす、水にすむかはづのこゑをきけば、いきとしいけるもの いづれかうたをよまざりける、ちからをもいれずしてあめつちをうごかし、めに見えぬ
おに神をもあはれとおもはせ、をとこをむなのなかをもやはらげ、たけきもののふの心 をもなぐさむるは、うたなり
このうた、あめつちのひらけはじまりける時よりいできにけり、あまのうきはしのした にて、め神を神となりたまへる事をいへるうたなり、しかあれども、世につたはること
は、ひさかたのあめにしては、したてるひめにはじまり、したてるひめとは、あめわか みこのめなり、せうとの神のかたち、をか、たににうつりてかかやくをよめるえびす哥
なるべし、これらはもじのかずもさだまらず、うたのやうにもあらぬことども也、あら かねのつちにしては、すさのをのみことよりぞおこりける、ちはやぶる神世には
うたのもじもさだまらず、すなほにして、事の心わきがたかりけらし、ひとの世となり て、すさのをのみことよりぞみそもじあまりひともじはよみける、すさのをのみこと
は、あまてるおほむ神のこのかみ也、女とすみたまはむとて、いづものくにに宮づくり したまふ時に、その所にやいろのくものたつを見てよみたまへる也、<やくもたついづ
もやへがきつまごめにやへがきつくるそのやへがきを>、かくてぞ花をめで、とりをう らやみ、かすみをあはれび、つゆをかなしぶ心ことば、おほくさまざまになりにける、
とほき所もいでたつあしもとよりはじまりて、
年月をわたり、たかき山もふもとのちりひぢよりなりて、あまぐもたなびくまでおひの ぼれるごとくに、このうたもかくのごとくなるべし、なにはづのうたは、みかどの
おほむはじめなり、おほさざきのみかどの、なにはづにてみこときこえける時、東宮を たがひにゆづりて、くらゐにつきたまはで、三とせになりにければ、王仁といふ人のい
ぶかり思ひて、よみてたてまつりけるうた也、この花は梅のはなをいふなるべし、あさ か山のことばは、うねめのたはぶれよりよみて、かづらきのおほきみをみちのおくへつ
かはしたりけるに、くにのつかさ、事おろそかなりとて、
まうけなどしたりけれど、すさまじかりければ、うねめなりける女の、かはらけとりて よめるなり、これにぞおほきみの心とけにける、<あさか山かげさへ見ゆる山の井のあ
さくは人をおもふのもかは>、このふたうたはうたのちちははのやうにてぞ、手ならふ 人のはじめにもしける、そもそもうたのさまむつなり、からのうたにもかくぞあるべ
き、そのむくさのひとつには、そへうた、おほさざきのみかどをそへたてまつれるう た、<なにはづにさくやこの花ふゆごもり
いまははるべとさくやこのはな>といへるなるべし、ふたつには、かぞへうた、<さく 花におもひつくみのあぢきなさ身にいたづきのいるもしらずて>といへるなるべし、こ
れはただ事にいひて、ものにたとへなどもせぬものなり、このうたいかにいへるにかあ らむ、その心えがたし、いつつにただことうたといへるなむこれにはかなふべき、みつ
にはなずらへうた、<きみにけさあしたのしものおきていなばこひしきごとにきえやわ たらむ>といへるなるべし
これはものにもなずらへて、それがやうになむあるとやうにいふ也、この哥よくかなへ りとも見えず、<たらちめのおやのかふこのまゆごもりいぶせくもあるかいもにあはず
て>、かやうなるやこれにはかなふべからむ、よつにはたとへうた、<わがこひはよむ ともつきじありそうみのはまのまさごはよみつくすとも>といへるなるべし、これはよ
ろづのくさ木とりけだものにつけて心を見するなり、このうたはかくれたる所なむな き、されどはじめのそへうたとおなじやうなれば、すこしさまをかへたるなるべし、
<すまのあまのしほやくけぶり風をいたみおもはぬ方にたなびきにけり>、この哥など やかなふべからむ、
いつつにはただことうた、<いつはりのなき世なりせばいかばかり人のことのはうれし からまし>といへるなるべし、これはことのととのほりただしきをいふ也、この哥の心
さらにかなはず、とめうたとやいふべからむ、<山ざくらあくまでいろを見つるかな花 ちるべくも風ふかぬよに>、むつにはいはひうた、<このとのはむべもとみけりさき草
のみつばよつばにとのづくりせり>といへるなるべし、
これは世をほめて神につぐる也、このうたいはひうたとは見えずなむある、<かすがの にわかなつみつつよろづ世をいはふ心は神ぞしるらむ>、これらやすこしかなふべから
む、おほよそむくさにわかれむ事はえあるまじき事になむ、今の世中いろにつき人の心 花になりにけるより、あだなるうた、はかなきことのみいでくれば、いろごのみのいへ
に、むもれ木の人しれぬこととなりて、まめなるところには花すすきほにいだすべきこ とにもあらずなりにたり、そのはじめを
おもへばかかるべくなむあらぬ、いにしへの世世のみかど、春の花のあした、秋の月の 夜ごとに、さぶらふ人人をめして、ことにつけつつうたをたてまつらしめたまふ、ある
は花をそふとてたよりなき所にまどひ、あるは月をおもふとてしるべなきやみにたどれ る心心を見給ひて、さかしおろかなりとしろしめしけむ、しかあるのみにあらず、さざ
れいしにたとへ、つくば山にかけてきみをねがひ、よろこび
身にすぎ、たのしび心にあまり、ふじのけぶりによそへて人をこひ、松虫のねにともを しのび、たかさごすみの江のまつもあひおひのやうにおぼえ、おとこ山のむかしをおも
ひいでてをみなへしのひとときをくねるにも、うたをいひてぞなぐさめける、又春のあ したに花のちるを見、秋のゆふぐれにこのはのおつるをきき、あるはとしごとにかがみ
のかげに見ゆる雪と浪とをなげき、草のつゆ水あわを見て
わが身をおどろき、あるはきのふはさかえおごりて時をうしなひ世にわび、したしかり しもうとくなり、あるは松山の浪をかけ、野なかの水をくみ、秋はぎのしたばをなが
め、あかつきのしぎのはねがきをかぞへ、あるはくれ竹のうきふしを人にいひよしの河 をひきて世中をうらみきつるに、今はふじの山も煙たたずなり、ながらのはしもつくる
なりときく人は
うたにのみぞ心をなぐさめける、いにしへよりかくつたはるうちにも、ならの御時より ぞひろまりにける、かのおほむ世やうたの心をしろしめしたりけむ、かのおほむ時に、
おほきみつのくらゐかきのもとの人まろなむうたのひじりなりける、これはきみもひと も身をあはせたりといふなるべし、秋のゆふべ竜田河にながるるもみぢをば、みかどの
おほむめににしきと
見たまひ、春のあしたよしのの山のさくらは人まろが心にはくもかとのみなむおぼえけ る、又山の辺のあかひとといふ人ありけり、うたにあやしくたへなりけり、人まろはあ
かひとがかみにたたむことかたく、あか人は人まろがしもにたたむことかたくなむあり ける、ならのみかどの御うた、<たつた河もみぢみだれてながるめりわたらばにしきな
かやたえなむ>、人まろ、<梅花それとも見えず久方のあまぎる雪のなべてふれれ ば>、<ほのぼのとあかしのうらのあさぎりに島がくれ行く舟をしぞ思ふ>、
赤人、<春ののにすみれつみにとこし我ぞのをなつかしみひと夜ねにける>、<わかの 浦にしほみちくれば方をなみあしべをさしてたづなきわたる>、この人人をおきて又す
ぐれたる人もくれ竹の世世にきこえ、かたいとのよりよりにたえずぞありける、これよ りさきのうたをあつめてなむ方えふしふとなづけられたりける、ここにいにしへのこと
をもうたの心をもしれる人
わづかにひとりふたりなりき、しかあれどこれかれえたるところ、えぬところたがひに なむある、かの御時よりこのかた、年はももとせあまり、世はとつぎになむなりにけ
る、いにしへの事をもうたをも、しれる人よむ人おほからず、いまこのことをいふに、 つかさくらゐたかき人をば、たやすきやうなればいれず、そのほかにちかき世に、その
名きこえたる人は、すなはち
僧正遍昭は、うたのさまはえたれどもまことすくなし、たとへばゑにかけるをうなを見 ていたづらに心をうごかすがごとし、<あさみどりいとよりかけてしらつゆをたまにも
ぬけるはるの柳か>、<はちすばのにごりにしまぬ心もてなにかはつゆをたまとあざむ く>、さがのにてむまよりおちてよめる、<名にめでてをれるばかりぞをみなへしわれ
おちにきと人にかたるな>、ありはらのなりひらはその心あまりてことばたらず、しぼ める花のいろなくてにほひ
のこれるがごとし、<月やあらぬ春やむかしの春ならぬわが身ひとつはもとの身にし て>、<おほかたは月をもめでじこれぞこのつもれば人のおいとなるもの>、<ねぬる
よのゆめをはかなみまどろめばいやはかなにもなりまさるかな>、ふんやのやすひでは ことばはたくみにて、そのさま身におはず、いはばあき人のよききぬきたらむがごと
し、<吹からによもの草木のしをるればむべ山かぜをあらしといふらむ>、深草のみか どの御国忌に、<草ふかきかすみのたににかげかくしてる日のくれしけふにやはあら
ぬ>、宇治山のそうきせんは、ことば
かすかにしてはじめをはりたしかならず、いはば秋の月を見るにあかつきのくもにあへ るがごとし、<わがいほはみやこのたつみしかぞすむ世をうぢ山と人はいふなり>、よ
めるうたおほくきこえねば、かれこれをかよはしてよくしらず、をののこまちは、いに しへのそとほりひめの流なり、あはれなるやうにてつよからず、いはばよきをうなのな
やめる所あるににたり、つよからぬはをう
なのうたなればなるべし、<思ひつつぬればや人の見えつらむゆめとしりせばさめざら ましを>、<いろ見えでうつろふものは世中の人の心の花にぞありける>、<わびぬれ
ば身をうきくさのねをたえてさそふ水あらばいなむとぞ思ふ>、そとほりひめのうた、 <わがせこがくべきよひなりささがにのくものふるまひかねてしるしも>、おほともの
くろぬしは、そのさまいやし、いはばたきぎおへる山びとの花のかげにやすめるがごと し、<思ひいでてこひしき時ははつかりのなきてわたると人はしらずや>、<かがみ山
いざたちよりて見てゆかむとしへぬる身はおいやしぬると>、
このほかの人人その名きこゆる、野辺におふるかづらのはひひろごり、はやしにしげき このはのごとくにおほかれど、うたとのみ思ひてそのさましらぬなるべし、かかるにい
ますべらぎのあめのしたしろしめすこと、よつの時ここのかへりになむなりぬる、あま ねきおほむうつくしみのなみ、やしまのほかまでながれ、ひろきおほむめぐみのかげ、
つ
くば山のふもとよりもしげくおはしまして、よろづのまつりごとをきこしめすいとま、 もろもろのことをすてたまはぬあまりに、いにしへのことをもわすれじ、ふりにしこと
をもおこしたまふとて、いまもみそなはし、のちの世にもつたはれとて、延喜五年四月 十八日に大内記きのとものり、御書のところのあづかりきのつらゆき、さきのかひのさ
う官おほし
かふちのみつね、右衛門の府生みぶのただみねらにおほせられて、万えふしふにいらぬ ふるきうたみづからのをもたてまつらしめたまひてなむ、それがなかにむめをかざすよ
りはじめて、ほととぎすをきき、もみぢををり、雪を見るにいたるまで、又つるかめに つけてきみをおもひ人をもいはひ、秋はぎ夏草を見てつまをこひ、あふさか山にいたり
て
たむけをいのり、あるは春夏秋冬にもいらぬくさぐさのうたをなむえらばせたまひけ る、すべて千うた、はたまき、名づけてこきむわかしふといふ、かくこのたびあつめえ
らばれて、山した水のたえず、はまのまさごのかずおほくつもりぬれば、いまはあすか がはのせになるうらみもきこえず、さざれいしのいはほとなるよろこびのみぞあるべ
き、それまくら
ことば、春の花にほひすくなくして、むなしき名のみ秋の夜のながきをかこてれば、か つは人のみみにおそり、かつはうたの心にはぢおもへど、たなびくくものたちゐなくし
かのおきふしは、つらゆきらがこの世におなじくむまれて、このことの時にあへるをな むよろこびぬる、人まろなくなりにたれど、うたのこととどまれるかな、たとひ時うつ
り
ことさり、たのしびかなしびゆきかふとも、このうたのもじあるをや、あをやぎのいと たえず、まつのはのちりうせずして、まさきのかづらながくつたはり、とりのあとひさ
しくとどまれらば、うたのさまをもしり、ことの心をえたらむ人は、おほぞらの月を見 るがごとくにいにしへをあふぎて、いまをこひざらめかも
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1
在原元方
ふるとしに春たちける日よめる
としのうちに春はきにけりひととせをこぞとやいはむことしとやいはむ
2
紀貫之
はるたちける日よめる
袖ひちてむすびし水のこほれるを春立つけふの風やとくらむ
3
よみ人しらず
題しらず
春霞たてるやいづこみよしののよしのの山に雪はふりつつ
4
二条のきさきのはるのはじめの御うた
雪の内に春はきにけりうぐひすのこほれる涙今やとくらむ
5
よみ人しらず
題しらず
梅がえにきゐるうぐひすはるかけてなけどもいまだ雪はふりつつ
6
素性法師
雪の木にふりかかれるをよめる
春立てば花とや見らむ白雪のかかれる枝にうぐひすぞなく
7
よみ人しらず
題しらず
心ざしふかくそめてし折りければきえあへぬ雪の花と見ゆらむ
ある人のいはく、さきのおほきおほいまうちぎみの 哥なり
8
文屋やすひで
二条のきさきのとう宮のみやすんどころときこえけ る時、正月三日おまへにめして、おほせごとあるあひだに、日はてりながら雪のかしら にふりかかりけるをよませ給ひける
春の日のひかりにあたる我なれどかしらの雪となるぞわびしき
9
きのつらゆき
ゆきのふりけるをよめる
霞たちこのめもはるの雪ふれば花なきさとも花ぞちりける
10
ふぢはらのことなほ
春のはじめによめる
はるやとき花やおそきとききわかむ鶯だにもなかずもあるかな
11
みぶのただみね
はるのはじめのうた
春きぬと人はいへどもうぐひすのなかぬかぎりはあらじとぞ思ふ
12
源まさずみ
寛平御時きさいの宮のうたあはせのうた
谷風にとくるこほりのひまごとにうちいづる浪や春のはつ花
13
紀とものり
花のかを風のたよりにたぐへてぞ鶯さそふしるべにはやる
14
大江千里
うぐひすの谷よりいづるこゑなくは春くることをたれかしらまし
15
在原棟梁
春たてど花もにほはぬ山ざとはものうかるねに鶯ぞなく
16
よみ人しらず
題しらず
野辺ちかくいへゐしせればうぐひすのなくなるこゑはあさなあさなきく
17
かすがのはけふはなやきそわか草のつまもこもれり我もこもれり
18
かすがののとぶひののもりいでて見よ今いくかありてわかなつみてむ
19
み山には松の雪だにきえなくに宮こはのべのわかなつみけり
20
梓弓おしてはるさめけふふりぬあすさへふらばわかなつみてむ
21
仁和のみかどみこにおましましける時に、人にわか なたまひける御うた
君がため春ののにいでてわかなつむわが衣手に雪はふりつつ
22
つらゆき
哥たてまつれとおほせられし時よみてたてまつれる
かすがののわかなつみにや白妙の袖ふりはへて人のゆくらむ
23
在原行平朝臣
題しらず
はるのきるかすみの衣ぬきをうすみ山風にこそみだるべらなれ
24
源むねゆきの朝臣
寛平御時きさいの宮の哥合によめる
ときはなる松のみどりも春くれば今ひとしほの色まさりけり
25
つらゆき
哥たてまつれとおほせられし時によみてたてまつれ る
わがせこが衣はるさめふるごとにのべのみどりぞいろまさりける
26
あをやぎのいとよりかくる春しもぞみだれて花のほころびにける
27
僧正遍昭
西大寺のほとりの柳をよめる
あさみどりいとよりかけてしらつゆをたまにもぬける春の柳か
28
よみ人しらず
題しらず
ももちどりさへづる春は物ごとにあらたまれども我ぞふり行く
29
をちこちのたづきもしらぬ山なかにおぼつかなくもよぶこどりかな
30
凡河内みつね
かりのこゑをききてこしへまかりにける人を思ひて よめる
春くればかりかへるなり白雲のみちゆきぶりにことやつてまし
31
伊勢
帰雁をよめる
はるがすみたつを見すててゆくかりは花なきさとにすみやならへる
32
よみ人しらず
題しらず
折りつれば袖こそにほへ梅花有りとやここにうぐひすのなく
33
色よりもかこそあはれとおもほゆれたが袖ふれしやどの梅ぞも
34
やどちかく梅の花うゑじあぢきなくまつ人のかにあやまたれけり
35
梅花たちよるばかりありしより人のとがむるかにぞしみぬる
36
東三条の左のおほいまうちぎみ
むめの花ををりてよめる
鶯の笠にぬふといふ梅花折りてかざさむおいかくるやと
37
素性法師
題しらず
よそにのみあはれとぞ見し梅花あかぬいろかは折りてなりけり
38
とものり
むめの花ををりて人におくりける
君ならで誰にか見せむ梅花色をもかをもしる人ぞしる
39
つらゆき
くらぶ山にてよめる
梅花にほふ春べはくらぶ山やみにこゆれどしるくぞ有りける
40
みつね
月夜に梅花ををりてと人のいひければ、をるとてよ める
月夜にはそれとも見えず梅花かをたづねてぞしるべかりける
41
はるのよ梅花をよめる
春の夜のやみはあやなし梅花色こそ見えねかやはかくるる
42
つらゆき
はつせにまうづるごとにやどりける人の家に、ひさ しくやどらで、ほどへてのちにいたれりければ、かの家のあるじ、かくさだかになむや どりはあるといひいだして侍りければ、そこにたてりけるむめの花ををりてよめる
人はいさ心もしらずふるさとは花ぞ昔のかににほひける
43
伊勢
水のほとりに梅花さけりけるをよめる
春ごとにながるる河を花と見てをられぬ水に袖やぬれなむ
44
年をへて花のかがみとなる水はちりかかるをやくもるといふらむ
45
つらゆき
家にありける梅花のちりけるをよめる
くるとあくとめかれぬものを梅花いつの人まにうつろひぬらむ
46
よみ人しらず
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
梅がかをそでにうつしてとどめてば春はすぐともかたみならまし
47
素性法師
ちると見てあるべきものを梅花うたてにほひのそでにとまれる
48
よみ人しらず
題しらず
ちりぬともかをだにのこせ梅花こひしき時のおもひいでにせむ
49
つらゆき
人の家にうゑたりけるさくらの花さきはじめたりけ るを見てよめる
ことしより春しりそむるさくら花ちるといふ事はならはざらなむ
50
よみ人しらず
題しらず
山たかみ人もすさめぬさくら花いたくなわびそ我見はやさむ
又は、さととほみ人もすさめぬ山ざくら
51
やまざくらわが見にくれば春霞峯にもをにもたちかくしつつ
52
さきのおほきおほいまうちぎみ
そめどののきさきのおまへに花がめにさくらの花を ささせ給へるを見てよめる
年ふればよはひはおいぬしかはあれど花をし見ればもの思ひもなし
53
在原業平朝臣
なぎさの院にてさくらを見てよめる
世中にたえてさくらのなかりせば春の心はのどけからまし
54
よみ人しらず
題しらず
いしばしるたきなくもがな桜花たをりてもこむ見ぬ人のため
55
そせい法し
山のさくらを見てよめる
見てのみや人にかたらむさくら花てごとにをりていへづとにせむ
56
花ざかりに京を見やりてよめる
みわたせば柳桜をこきまぜて宮こぞ春の錦なりける
57
きのとものり
さくらの花のもとにて年のおいぬることをなげきて よめる
いろもかもおなじむかしにさくらめど年ふる人ぞあらたまりける
58
つらゆき
をれるさくらをよめる
たれしかもとめてをりつる春霞たちかくすらむ山のさくらを
59
哥たてまつれとおほせられし時によみてたてまつれ る
桜花さきにけらしなあしひきの山のかひより見ゆる白雲
60
とものり
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
み吉野の山べにさけるさくら花雪かとのみぞあやまたれける
61
伊勢
やよひにうるふ月ありける年よみける
さくら花春くははれる年だにも人の心にあかれやはせぬ
62
よみ人しらず
さくらの花のさかりに、ひさしくとはざりける人の きたりける時によみける
あだなりとなにこそたてれ桜花年にまれなる人もまちけり
63
なりひらの朝臣
返し
けふこずはあすは雪とぞふりなましきえずはありとも花と見ましや
64
よみ人しらず
題しらず
ちりぬればこふれどしるしなき物をけふこそさくらをらばをりてめ
65
をりとらばをしげにもあるか桜花いざやどかりてちるまでは見む
66
きのありとも
さくらいろに衣はふかくそめてきむ花のちりなむのちのかたみに
67
みつね
さくらの花のさけりけるを見にまうできたりける人 によみておくりける
わがやどの花見がてらにくる人はちりなむのちぞこひしかるべき
68
伊勢
亭子院哥合の時よめる
見る人もなき山ざとのさくら花ほかのちりなむのちぞさかまし
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69
よみ人しらず
題しらず
春霞たなびく山のさくら花うつろはむとや色かはりゆく
70
まてといふにちらでしとまる物ならばなにを桜に思ひまさまし
71
のこりなくちるぞめでたき桜花ありて世中はてのうければ
72
このさとにたびねしぬべしさくら花ちりのまがひにいへぢわすれて
73
空蝉の世にもにたるか花ざくらさくと見しまにかつちりにけり
74
これたかのみこ
僧正遍昭によみておくりける
さくら花ちらばちらなむちらずとてふるさと人のきても見なくに
75
そうく法師
雲林院にてさくらの花のちりけるを見てよめる
桜ちる花の所は春ながら雪ぞふりつつきえがてにする
76
そせい法し
さくらの花のちり侍りけるを見てよみける
花ちらす風のやどりはたれかしる我にをしへよ行きてうらみむ
77
そうく法し
うりむゐんにてさくらの花をよめる
いざさくら我もちりなむひとさかりありなば人にうきめ見えなむ
78
つらゆき
あひしれりける人のまうできてかへりにけるのちに よみて花にさしてつかはしける
ひとめ見し君もやくると桜花けふはまち見てちらばちらなむ
79
山のさくらを見てよめる
春霞なにかくすらむ桜花ちるまをだにも見るべき物を
80
藤原よるかの朝臣
心地そこなひてわづらひける時に、風にあたらじと ておろしこめてのみ侍りけるあひだに、をれるさくらのちりがたになれりけるを見てよ める
たれこめて春のゆくへもしらぬまにまちし桜もうつろひにけり
81
すがのの高世
東宮雅院にてさくらの花のみかは水にちりてながれ けるを見てよめる
枝よりもあだにちりにし花なればおちても水のあわとこそなれ
82
つらゆき
さくらの花のちりけるをよみける
ごとならばさかずやはあらぬさくら花見る我さへにしづ心なし
83
さくらのごととくちる物はなしと人のいひければよ める
さくら花とくちりぬともおもほえず人の心ぞ風も吹きあへぬ
84
きのとものり
桜の花のちるをよめる
久方のひかりのどけき春の日にしづ心なく花のちるらむ
85
ふぢはらのよしかぜ
春宮のたちはきのぢんにてさくらの花のちるをよめ る
春風は花のあたりをよきてふけ心づからやうつろふと見む
86
凡河内みつね
さくらのちるをよめる
雪とのみふるだにあるをさくら花いかにちれとか風の吹くらむ
87
つらゆき
ひえにのぼりてかへりまうできてよめる
山たかみみつつわがこしさくら花風は心にまかすべらなり
88
大伴くろぬし
題しらず
春雨のふるは涙かさくら花ちるををしまぬ人しなければ
89
つらゆき
亭子院哥合哥
さくら花ちりぬる風のなごりには水なきそらに浪ぞたちける
90
ならのみかどの御うた
ふるさととなりにしならのみやこにも色はかはらず花はさきけり
91
よしみねのむねさだ
はるのうたとてよめる
花の色はかすみにこめて見せずともかをだにぬすめ春の山かぜ
92
そせい法し
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
はなの木も今はほりうゑじ春たてばうつろふ色に人ならひけり
93
よみ人しらず
題しらず
春の色のいたりいたらぬさとはあらじさけるさかざる花の見ゆらむ
94
つらゆき
はるのうたとてよめる
みわ山をしかもかくすか春霞人にしられぬ花やさくらむ
95
そせい
うりむゐんのみこのもとに、花見にきた山のほとり にまかれりける時によめる
いざけふは春の山辺にまじりなむくれなばなげの花のかげかは
96
はるのうたとてよめる
いつまでか野辺に心のあくがれむ花しちらずは千世もへぬべし
97
よみ人しらず
題しらず
春ごとに花のさかりはありなめどあひ見む事はいのちなりけり
98
花のごと世のつねならばすぐしてし昔は又もかへりきなまし
99
吹く風にあつらへつくる物ならばこのひともとはよぎよといはまし
100
まつ人もこぬものゆゑにうぐひすのなきつる花ををりてけるかな
101
藤原おきかぜ
寛平御時きさいの宮のうたあはせのうた
さく花は千くさながらにあだなれどたれかははるをうらみはてたる
102
春霞色のちくさに見えつるはたなびく山の花のかげかも
103
ありはらのもとかた
霞立つ春の山べはとほけれど吹きくる風は花のかぞする
104
みつね
うつろへる花を見てよめる
花見れば心さへにぞうつりけるいろにはいでじ人もこそしれ
105
よみ人しらず
題しらず
鶯のなくのべごとにきて見ればうつろふ花に風ぞふきける
106
吹く風をなきてうらみよ鶯は我やは花に手だにふれたる
107
典侍洽子朝臣
ちる花のなくにしとまる物ならば我鶯におとらましやは
108
藤原のちかげ
仁和の中将のみやすん所の家に哥合せむとてしける 時によみける
花のちることやわびしき春霞たつたの山のうぐひすのこゑ
109
そせい
うぐひすのなくをよめる
こづたへばおのがはかぜにちる花をたれにおほせてここらなくらむ
110
みつね
鶯の花の木にてなくをよめる
しるしなきねをもなくかなうぐひすのことしのみちる花ならなくに
111
よみ人しらず
題しらず
こまなめていざ見にゆかむふるさとは雪とのみこそ花はちるらめ
112
ちる花をなにかうらみむ世中にわが身もともにあらむ物かは
113
小野小町
花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに
114
そせい
仁和の中将のみやすん所の家に哥合せむとしける時 によめる
をしと思ふ心はいとによられなむちる花ごとにぬきてとどめむ
115
つらゆき
しがの山ごえに女のおほくあへりけるに、よみてつ かはしける
あづさゆみはるの山辺をこえくれば道もさりあへず花ぞちりける
116
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
春ののにわかなつまむとこしものをちりかふ花にみちはまどひぬ
117
山でらにまうでたりけるによめる
やどりして春の山辺にねたる夜は夢の内にも花ぞちりける
118
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
吹く風と谷の水としなかりせばみ山がくれの花を見ましや
119
僧正遍昭
しがよりかへりけるをうなどもの花山にいりて ふぢの花のもとにたちよりてかへりけるに、よみておくりける
よそに見てかへらむ人にふぢの花はひまつはれよえだはをるとも
120
みつね
家にふぢの花のさけりけるを、人のたちとまりて見 けるをよめる
わがやどにさける藤波たちかへりすぎがてにのみ人の見るらむ
121
よみ人しらず
題しらず
今もかもさきにほふらむ橘のこじまのさきの山吹の花
122
春雨ににほへる色もあかなくにかさへなつかし山吹の花
123
山ぶきはあやななさきそ花見むとうゑけむ君がこよひこなくに
124
つらゆき
よしの河のほとりに山ぶきのさけりけるをよめる
吉野河岸の山吹ふくかぜにそこの影さへうつろひにけり
125
よみ人しらず
題しらず
かはづなくゐでの山吹ちりにけり花のさかりにあはまし物を
この哥は、ある人のいはく、たちばなのきよとも が哥なり
126
そせい
春の哥とてよめる
おもふどち春の山辺にうちむれてそこともいはぬたびねしてしか
127
みつね
はるのとくすぐるをよめる
あづさゆみ春たちしより年月のいるがごとくもおもほゆるかな
128
つらゆき
やよひにうぐひすのこゑのひさしうきこえざりける をよめる
なきとむる花しなければうぐひすもはては物うくなりぬべらなり
129
ふかやぶ
やよひのつごもりがたに山をこえけるに、山河より 花のながれけるをよめる
花ちれる水のまにまにとめくれば山には春もなくなりにけり
130
もとかた
はるををしみてよめる
をしめどもとどまらなくに春霞かへる道にしたちぬとおもへば
131
おきかぜ
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
こゑたえずなけやうぐひすひととせにふたたびとだにくべき春かは
132
みつね
やよひのつごもりの日、花つみよりかへりける女 どもを見てよめる
とどむべき物とはなしにはかなくもちる花ごとにたぐふこころか
133
なりひらの朝臣
やよひのつごもりの日あめのふりけるに、ふぢの花 ををりて人につかはしける
ぬれつつぞしひてをりつる年の内に春はいくかもあらじと思へば
134
みつね
亭子院の哥合のはるのはてのうた
けふのみと春をおもはぬ時だにも立つことやすき花のかげかは
--------------------------------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------------------------------
135
よみ人しらず
題しらず
わがやどの池の藤波さきにけり山郭公いつかきなかむ
このうた、ある人のいはく、かきのもとの人まろが 也
136
紀としさだ
う月にさけるさくらを見てよめる
あはれてふ事をあまたにやらじとや春におくれてひとりさくらむ
137
よみ人しらず
題しらず
さ月まつ山郭公うちはぶき今もなかなむこぞのふるごゑ
138
伊勢
五月こばなきもふりなむ郭公まだしきほどのこゑをきかばや
139
よみ人しらず
さつきまつ花橘のかをかげば昔の人の袖のかぞする
140
いつのまにさ月きぬらむあしひきの山郭公今ぞなくなる
141
けさきなきいまだたびなる郭公花たちばなにやどはからなむ
142
きのとものり
おとは山をこえける時に郭公のなくをききてよめる
おとは山けさこえくれば郭公こずゑはるかに今ぞなくなる
143
そせい
郭公のはじめてなきけるをききてよめる
郭公はつこゑきけばあぢきなくぬしさだまらぬこひせらるはた
144
ならのいその神でらにて郭公のなくをよめる
いその神ふるき宮この郭公声ばかりこそむかしなりけれ
145
よみ人しらず
題しらず
夏山になく郭公心あらば物思ふ我に声なきかせそ
146
郭公なくこゑきけばわかれにしふるさとさへぞこひしかりける
147
ほととぎすながなくさとのあまたあれば猶うとまれぬ思ふ物から
148
思ひいづるときはの山の郭公唐紅のふりいでてぞなく
149
声はして涙は見えぬ郭公わが衣手のひつをからなむ
150
あしひきの山郭公をりはへてたれかまさるとねをのみぞなく
151
今さらに山へかへるな郭公こゑのかぎりはわがやどになけ
152
みくにのまち
やよやまて山郭公事づてむ我世中にすみわびぬとよ
153
紀とものり
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
五月雨に物思ひをれば郭公夜ふかくなきていづちゆくらむ
154
夜やくらき道やまどへるほととぎすわがやどをしもすぎがてになく
155
大江千里
やどりせし花橘もかれなくになどほととぎすこゑたえぬらむ
156
きのつらゆき
夏の夜のふすかとすれば郭公なくひとこゑにあくるしののめ
157
みぶのただみね
くるるかと見ればあけぬるなつのよをあかずとやなく山郭公
158
紀秋岑
夏山にこひしき人やいりにけむ声ふりたててなく郭公
159
よみ人しらず
題しらず
こぞの夏なきふるしてし郭公それかあらぬかこゑのかはらぬ
160
つらゆき
郭公のなくをききてよめる
五月雨のそらもとどろに郭公なにをうしとかよただなくらむ
161
みつね
さぶらひにてをのこどものさけたうべけるに、めし て郭公まつうたよめとありければよめる
ほととぎすこゑもきこえず山びこはほかになくねをこたへやはせぬ
162
つらゆき
山に郭公のなきけるをききてよめる
郭公人まつ山になくなれば我うちつけにこひまさりけり
163
ただみね
はやくすみける所にてほととぎすのなきけるを ききてよめる
むかしべや今もこひしき郭公ふるさとにしもなきてきつらむ
164
みつね
郭公のなきけるをききてよめる
郭公我とはなしに卯花のうき世中になきわたるらむ
165
僧正へんぜう
はちすのつゆを見てよめる
はちすばのにごりにしまぬ心もてなにかはつゆを玉とあざむく
166
深養父
月のおもしろかりける夜、あかつきがたによめる
夏の夜はまだよひながらあけぬるを雲のいづこに月やどるらむ
167
みつね
となりよりとこなつの花をこひにおこせたりけれ ば、をしみてこのうたをよみてつかはしける
ちりをだにすゑじとぞ思ふさきしよりいもとわがぬるとこ夏のはな
168
みな月のつごもりの日よめる
夏と秋と行きかふそらのかよひぢはかたへすずしき風やふくらむ
--------------------------------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------------------------------
169
藤原敏行朝臣
秋立つ日よめる
あききぬとめにはさやかに見えねども風のおとにぞおどろかれぬる
170
つらゆき
秋たつ日、うへのをのこどもかものかはらにかはせ うえうしけるともにまかりてよめる
河風のすずしくもあるかうちよする浪とともにや秋は立つらむ
171
よみ人しらず
題しらず
わがせこが衣のすそを吹き返しうらめづらしき秋のはつ風
172
きのふこそさなへとりしかいつのまにいなばそよぎて秋風の吹く
173
秋風の吹きにし日より久方のあまのかはらにたたぬ日はなし
174
久方のあまのかはらのわたしもり君わたりなばかぢかくしてよ
175
天河紅葉をはしにわたせばやたなばたつめの秋をしもまつ
176
こひこひてあふ夜はこよひあまの河きり立ちわたりあけずもあらなむ
177
とものり
寛平御時なぬかの夜、うへにさぶらふをのこども、 哥たてまつれとおほせられける時に、人にかはりてよめる
天河あさせしら浪たどりつつわたりはてねばあけぞしにける
178
藤原おきかぜ
おなじ御時きさいの宮の哥合のうた
契りけむ心ぞつらきたなばたの年にひとたびあふはあふかは
179
凡河内みつね
なぬかの日の夜よめる>
年ごとにあふとはすれどたなばたのぬるよのかずぞすくなかりける
180
織女にかしつる糸の打ちはへて年のをながくこひやわたらむ
181
そせい
題しらず
こよひこむ人にはあはじたなばたのひさしきほどにまちもこそすれ
182
源むねゆきの朝臣
なぬかの夜のあかつきによめる
今はとてわかるる時は天河わたらぬさきにそでぞひちぬる
183
みぶのただみね
やうかの日よめる
けふよりはいまこむ年のきのふをぞいつしかとのみまちわたるべき
184
よみ人しらず
題しらず
このまよりもりくる月の影見れば心づくしの秋はきにけり
185
おほかたの秋くるからにわが身こそかなしき物と思ひしりぬれ
186
わがためにくる秋にしもあらなくにむしのねきけばまづぞかなしき
187
物ごとに秋ぞかなしきもみぢつつうつろひゆくをかぎりと思へば
188
ひとりぬるとこは草ばにあらねども秋くるよひはつゆけかりけり
189
これさだのみこの家の哥合のうた
いつはとは時はわかねど秋のよぞ物思ふ事のかぎりなりける
190
みつね
かむなりのつぼに人人あつまりて秋のよをしむ哥よ みけるついでによめる
かくばかりをしと思ふ夜をいたづらにねてあかすらむ人さへぞうき
191
よみ人しらず
題しらず
白雲にはねうちかはしとぶかりのかずさへ見ゆる秋のよの月
192
さ夜なかと夜はふけぬらしかりがねのきこゆるそらに月わたる見ゆ
193
大江千里
これさだのみこの家の哥合によめる
月見れはちぢに物こそかなしけれわが身ひとつの秋にはあらねど
194
ただみね
久方の月の桂も秋は猶もみぢすればやてりまさるらむ
195
在原元方
月をよめる
秋の夜の月のひかりしあかければくらぶの山もこえぬべらなり
196
藤原忠房
人のもとにまかれりける夜、きりぎりすのなきける をききてよめる
蟋蟀いたくななきそ秋の夜の長き思ひは我ぞまされる
197
としゆきの朝臣
これさだのみこの家の哥合のうた
秋の夜のあくるもしらずなくむしはわがごと物やかなしかるらむ
198
よみ人しらず
題しらず
あき萩も色づきぬればきりぎりすわがねぬごとやよるはかなしき
199
秋の夜はつゆこそことにさむからし草むらごとにむしのわぶれば
200
君しのぶ草にやつるるふるさとは松虫のねぞかなしかりける
201
秋ののに道もまどひぬ松虫のこゑする方にやどやからまし
202
あきののに人松虫のこゑすなり我かとゆきていざとぶらはむ
203
もみぢばのちりてつもれるわがやどに誰を松虫ここらなくらむ
204
ひぐらしのなきつるなへに日はくれぬと思ふは山のかげにぞありける
205
ひぐらしのなく山里のゆふぐれは風よりほかにとふ人もなし
206
在原元方
はつかりをよめる
まつ人にあらぬ物からはつかりのけさなくこゑのめづらしきかな
207
とものり
これさだのみこの家の哥合のうた
秋風にはつかりがねぞきこゆなるたがたまづさをかけてきつらむ
208
よみ人しらず
題しらず
わがかどにいなおほせどりのなくなへにけさ吹く風にかりはきにけり
209
いとはやもなきぬるかりか白露のいろどる木木ももみぢあへなくに
210
春霞かすみていにしかりがねは今ぞなくなる秋ぎりのうへに
211
夜をさむみ衣かりがねなくなへに萩のしたばもうつろひにけり
このうたはある人のいはく、柿本の人まろが也と
212
藤原菅根朝臣
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
秋風にこゑをほにあげてくる舟はあまのとわたるかりにぞありける
213
みつね
かりのなきけるをききてよめる
うき事を思ひつらねてかりがねのなきこそわたれ秋のよなよな
214
ただみね
これさだのみこの家の哥合のうた
山里は秋こそことにわびしけれしかのなくねにめをさましつつ
215
よみ人しらず
おく山に紅葉ふみわけなく鹿のこゑきく時ぞ秋は悲しき
216
題しらず
秋はぎにうらびれをればあしひきの山したとよみしかのなくらむ
217
秋はぎをしがらみふせてなくしかのめには見えずておとのさやけさ
218
藤原としゆきの朝臣
これさだのみこの家の哥合によめる
あきはぎの花さきにけり高砂のをのへのしかは今やなくらむ
219
みつね
むかしあひしりて侍りける人の、秋ののにあひて物 がたりしけるついでによめる
秋はぎのふるえにさける花見れば本の心はわすれざりけり
220
よみ人しらず
題しらず
あきはぎのしたば色づく今よりやひとりある人のいねがてにする
221
なきわたるかりの涙やおちつらむ物思ふやどの萩のうへのつゆ
222
萩の露玉にぬかむととればけぬよし見む人は枝ながら見よ
ある人のいはく、この哥はならのみかどの御哥なり と
223
をりて見ばおちぞしぬべき秋はぎの枝もとををにおけるしらつゆ
224
萩が花ちるらむをののつゆしもにぬれてをゆかむさ夜はふくとも
225
文屋あさやす
是貞のみこの家の哥合によめる
秋ののにおくしらつゆは玉なれやつらぬきかくるくものいとすぢ
226
僧正へんぜう
題しらず
名にめでてをれるばかりぞをみなへし我おちにきと人にかたるな
227
ふるのいまみち
僧正遍昭がもとにならへまかりける時に、をとこ山 にてをみなへしを見てよめる
をみなへしうしと見つつぞゆきすぐるをとこ山にしたてりと思へば
228
としゆきの朝臣
是貞のみこの家の哥合のうた
秋ののにやどりはすべしをみなへし名をむつまじみたびならなくに
229
をののよし木
題しらず
をみなへしおほかるのべにやどりせばあやなくあだの名をやたちなむ
230
左のおほいまうちぎみ
朱雀院のをみなへしあはせによみてたてまつりける
をみなへし秋のの風にうちなびき心ひとつをたれによすらむ
231
藤原定方朝臣
秋ならであふことかたきをみなへしあまのかはらにおひぬものゆゑ
232
つらゆき
たが秋にあらぬものゆゑをみなへしなぞ色にいでてまだきうつろふ
233
みつね
つまこふるしかぞなくなる女郎花おのがすむのの花としらずや
234
女郎花ふきすぎてくる秋風はめには見えねどかこそしるけれ
235
ただみね
人の見る事やくるしきをみなへし秋ぎりにのみたちかくるらむ
236
ひとりのみながむるよりは女郎花わがすむやどにうゑて見ましを
237
兼覧王
ものへまかりけるに、人の家にをみなへしうゑたり けるを見てよめる
をみなへしうしろめたくも見ゆるかなあれたるやどにひとりたてれば
238
平さだふん
寛平御時、蔵人所のをのこどもさがのに花見むとてまかりたりける時、かへるとてみな哥よみけるついでによめる
花にあかでなにかへるらむをみなへしおほかるのべにねなましものを
239
としゆきの朝臣
これさだのみこの家の哥合によめる
なに人かきてぬぎかけしふぢばかまくる秋ごとにのべをにほはす
240
つらゆき
ふぢばかまをよみて人につかはしける
やどりせし人のかたみかふぢばかまわすられがたきかににほひつつ
241
そせい
ふぢばかまをよめる
ぬししらぬかこそにほへれ秋ののにたがぬぎかけしふぢばかまぞも
242
平貞文
題しらず
今よりはうゑてだに見じ花すすきほにいづる秋はわびしかりけり
243
ありはらのむねやな
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
秋の野の草のたもとか花すすきほにいでてまねく袖と見ゆらむ
244
素性法師
我のみやあはれとおもはむきりぎりすなくゆふかげのやまとなでしこ
245
よみ人しらず
題しらず
みどりなるひとつ草とぞ春は見し秋はいろいろの花にぞありける
246
ももくさの花のひもとく秋ののを思ひたはれむ人なとがめそ
247
月草に衣はすらむあさつゆにぬれてののちはうつろひぬとも
248
僧正遍昭
仁和のみかどみこにおはしましける時、ふるのた き御覧ぜむとておはしましけるみちに、遍昭がははの家にやどりたまへりける時に、 庭を秋ののにつくりて、おほむ物がたりのついでによみてたてまつりける
さとはあれて人はふりにしやどなれや庭もまがきも秋ののらなる
--------------------------------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------------------------------
249
文屋やすひで
これさだのみこの家の哥合のうた
吹くからに秋の草木のしをるればむべ山かぜをあらしといふらむ
250
草も木も色かはれどもわたつうみの浪の花にぞ秋なかりける
251
紀よしもち
秋の哥合しける時によめる
紅葉せぬときはの山は吹く風のおとにや秋をききわたるらむ
252
よみ人しらず
題しらず
霧立ちて雁ぞなくなる片岡の朝の原は紅葉しぬらむ
253
神な月時雨もいまだふらなくにかねてうつろふ神なびのもり
254
ちはやぶる神なび山のもみぢばに思ひはかけじうつろふ物を
255
藤原かちおむ
貞観御時、綾綺殿のまへに梅の木ありけり、にしの 方にさせりけるえだのもみぢはじめたりけるを、うへにさぶらふをのこどものよみける ついでによめる
おなじえをわきてこのはのうつろふは西こそ秋のはじめなりけれ
256
つらゆき
いしやまにまうでける時、おとは山のもみぢを見て よめる
秋風のふきにし日よりおとは山峯のこずゑも色づきにけり
257
としゆきの朝臣
これさだのみこの家の哥合によめる
白露の色はひとつをいかにして秋のこのはをちぢにそむらむ
258
壬生忠岑
秋の夜のつゆをばつゆとおきながらかりの涙やのべをそむらむ
259
よみ人しらず
題しらず
あきのつゆいろいろごとにおけばこそ山のこのはのちくさなるらめ
260
つらゆき
もる山のほとりにてよめる
しらつゆも時雨もいたくもる山はしたばのこらず色づきにけり
261
在原元方
秋のうたとてよめる
雨ふれどつゆももらじをかさとりの山はいかでかもみぢそめけむ
262
つらゆき
神のやしろのあたりをまかりける時にいがきのうち のもみぢを見てよめる
ちはやぶる神のいがきにはふくずも秋にはあへずうつろひにけり
263
ただみね
これさだのみこの家の哥合によめる
あめふればかさとり山のもみぢばはゆきかふ人のそでさへぞてる
264
よみ人しらず
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
ちらねどもかねてぞをしきもみぢばは今は限の色と見つれば
265
きのとものり
やまとのくににまかりける時、さほ山にきりのたて りけるを見てよめる
たがための錦なればか秋ぎりのさほの山辺をたちかくすらむ
266
よみ人しらず
是貞のみこの家の哥合のうた
秋ぎりはけさはなたちそさほ山のははそのもみぢよそにても見む
267
坂上是則
秋のうたとてよめる
佐保山のははその色はうすけれど秋は深くもなりにけるかな
268
在原なりひらの朝臣
人のせんざいにきくにむすびつけてうゑけるうた
うゑしうゑば秋なき時やさかざらむ花こそちらめねさへかれめや
269
としゆきの朝臣
寛平御時きくの花をよませたまうける
久方の雲のうへにて見る菊はあまつほしとぞあやまたれける
この哥は、まだ殿上ゆるされざりける時にめしあげ られてつかうまつれるとなむ
270
きのとものり
これさだのみこの家の哥合のうた
露ながらをりてかざさむきくの花おいせぬ秋のひさしかるべく
271
大江千里
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
うゑし時花まちどほにありしきくうつろふ秋にあはむとや見し
272
すがはらの朝臣
おなじ御時せられけるきくあはせに、すはまをつく りて菊の花うゑたりけるにくはへたりけるうた、ふきあげのはまのかたにきくうゑたり けるによめる
秋風の吹きあげにたてる白菊は花かあらぬか浪のよするか
273
素性法師
仙宮に菊をわけて人のいたれるかたをよめる
ぬれてほす山ぢの菊のつゆのまにいつかちとせを我はへにけむ
274
とものり
菊の花のもとにて人の人まてるかたをよめる
花見つつ人まつ時はしろたへの袖かとのみぞあやまたれける
275
おほさはの池のかたにきくうゑたるをよめる
ひともとと思ひしきくをおほさはの池のそこにもたれかうゑけむ
276
つらゆき
世中のはかなきことを思ひけるをりにきくの花を見 てよみける
秋の菊にほふかぎりはかざしてむ花よりさきとしらぬわが身を
277
凡河内みつね
しらぎくの花をよめる
心あてにをらばやをらむはつしものおきまどはせる白菊の花
278
よみ人しらず
これさだのみこの家の哥合のうた
いろかはる秋のきくをばひととせにふたたびにほふ花とこそ見れ
279
平さだふん
仁和寺にきくのはなめしける時に、うたそへてたて まつれとおほせられければ、よみてたてまつりける
秋をおきて時こそ有りけれ菊の花うつろふからに色のまされば
280
つらゆき
人の家なりけるきくの花をうつしうゑたりけるをよ める
さきそめしやどしかはれば菊の花色さへにこそうつろひにけれ
281
よみ人しらず
題しらず
佐保山のははそのもみぢちりぬべみよるさへ見よとてらす月影
282
藤原関雄
みやづかへひさしうつかうまつらで山ざとにこもり 侍りけるによめる
おく山のいはがきもみぢちりぬべしてる日のひかり見る時なくて
283
よみ人しらず
題しらず
竜田河もみぢみだれて流るめりわたらば錦なかやたえなむ
この哥は、ある人、ならのみかどの御哥なりとなむ 申す
284
たつた河もみぢば流る神なびのみむろの山に時雨ふるらし
又は、あすかがはもみぢばながる
285
こひしくは見てもしのばむもみぢばを吹きなちらしそ山おろしのかぜ
286
秋風にあへずちりぬるもみぢばのゆくへさだめぬ我ぞかなしき
287
あきはきぬ紅葉はやどにふりしきぬ道ふみわけてとふ人はなし
288
ふみわけてさらにやとはむもみぢばのふりかくしてしみちとみながら
289
秋の月山辺さやかにてらせるはおつるもみぢのかずを見よとか
290
吹く風の色のちくさに見えつるは秋のこのはのちればなりけり
291
せきを
霜のたてつゆのぬきこそよわからし山の錦のおればかつちる
292
(朱書「僧正へんせうイ」)
うりむゐんの木のかげにたたずみてよみける
わび人のわきてたちよるこの本はたのむかげなくもみぢちりけり
293
そせい
二条の后の春宮のみやす所と申しける時に、御屏風 にたつた河にもみぢながれたるかたをかけりけるを題にてよめる
もみぢばのながれてとまるみなとには紅深き浪や立つらむ
294
なりひらの朝臣
ちはやぶる神世もきかず竜田河唐紅に水くくるとは
295
としゆきの朝臣
これさだのみこの家の哥合のうた
わがきつる方もしられずくらぶ山木木のこのはのちるとまがふに
296
ただみね
神なびのみむろの山を秋ゆけば錦たちきる心地こそすれ
297
つらゆき
北山に紅葉をらむとてまかれりける時によめる
見る人もなくてちりぬるおく山の紅葉はよるのにしきなりけり
298
かねみの王
秋のうた
竜田ひめたむくる神のあればこそ秋のこのはのぬさとちるらめ
299
つらゆき
をのといふ所にすみ侍りける時もみぢを見てよめる
秋の山紅葉をぬさとたむくればすむ我さへぞたび心ちする
300
きよはらのふかやぶ
神なびの山をすぎて竜田河をわたりける時に、もみ ぢのながれけるをよめる
神なびの山をすぎ行く秋なればたつた河にぞぬさはたむくる
301
ふぢはらのおきかぜ
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
白浪に秋のこのはのうかべるをあまのながせる舟かとぞ見る
302
坂上これのり
たつた河のほとりにてよめる
もみぢばのながれざりせば竜田河水の秋をばたれかしらまし
303
はるみちのつらき
しがの山ごえにてよめる
山河に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり
304
みつね
池のほとりにてもみぢのちるをよめる
風ふけばおつるもみぢば水きよみちらぬかげさへそこに見えつつ
305
亭子院の御屏風のゑに、河わたらむとする人のもみ ぢのちる木のもとにむまをひかへてたてるをよませたまひければつかうまつりける
立ちとまり見てをわたらむもみぢばは雨とふるとも水はまさらじ
306
ただみね
是貞のみこの家の哥合のうた
山田もる秋のかりいほにおくつゆはいなおほせ鳥の涙なりけり
307
よみ人しらず
題しらず
ほにもいでぬ山田をもると藤衣いなばのつゆにぬれぬ日ぞなき
308
かれる田におふるひつちのほにいでぬは世を今更に秋はてぬとか
309
そせい法し
北山に僧正へんぜうとたけがりにまかれりけるによ める
もみぢばは袖にこきいれてもていでなむ秋は限と見む人のため
310
おきかぜ
寛平御時ふるきうたたてまつれとおほせられけれ ば、たつた河もみぢばながるといふ哥をかきて、そのおなじ心をよめりける
み山よりおちくる水の色見てぞ秋は限と思ひしりぬる
311
つらゆき
秋のはつる心をたつた河に思ひやりてよめる
年ごとにもみぢばながす竜田河みなとや秋のとまりなるらむ
312
なが月のつごもりの日大井にてよめる
ゆふづく夜をぐらの山になくしかのこゑの内にや秋はくるらむ
313
みつね
おなじつごもりの日よめる
道しらばたづねもゆかむもみぢばをぬさとたむけて秋はいにけり
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314
よみ人しらず
題しらず
竜田河錦おりかく神な月しぐれの雨をたてぬきにして
315
源宗于朝臣
冬の哥とてよめる
山里は冬ぞさびしさまさりける人めも草もかれぬと思へば
316
読人しらず
題しらず
おほぞらの月のひかりしきよければ影見し水ぞまづこほりける
317
ゆふされば衣手さむしみよしののよしのの山にみ雪ふるらし
318
今よりはつぎてふらなむわがやどのすすきおしなみふれるしら雪
319
ふる雪はかつぞけぬらしあしひきの山のたぎつせおとまさるなり
320
この河にもみぢば流るおく山の雪げの水ぞ今まさるらし
321
ふるさとはよしのの山しちかければひと日もみ雪ふらぬ日はなし
322
わがやどは雪ふりしきてみちもなしふみわけてとふ人しなければ
323
紀貫之
冬のうたとて
雪ふれば冬ごもりせる草も木も春にしられぬ花ぞさきける
324
紀あきみね
しがの山ごえにてよめる
白雪のところもわかずふりしけばいはほにもさく花とこそ見れ
325
坂上これのり
ならの京にまかれりける時にやどれりける所にてよ める
みよしのの山の白雪つもるらしふるさとさむくなりまさるなり
326
ふぢはらのおきかぜ
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
浦ちかくふりくる雪は白浪の末の松山こすかとぞ見る
327
壬生忠岑
みよしのの山の白雪ふみわけて入りにし人のおとづれもせぬ
328
白雪のふりてつもれる山ざとはすむ人さへや思ひきゆらむ
329
凡河内みつね
雪のふれるを見てよめる
ゆきふりて人もかよはぬみちなれやあとはかもなく思ひきゆらむ
330
きよはらのふかやぶ
ゆきのふりけるをよみける
冬ながらそらより花のちりくるは雲のあなたは春にやあるらむ
331
つらゆき
雪の木にふりかかれりけるをよめる
ふゆごもり思ひかけぬをこのまより花と見るまで雪ぞふりける
332
坂上これのり
やまとのくににまかれりける時に、ゆきのふりける を見てよめる
あさぼらけありあけの月と見るまでによしののさとにふれるしらゆき
333
よみ人しらず
題しらず
けぬがうへに又もふりしけ春霞たちなばみ雪まれにこそ見め
334
梅花それとも見えず久方のあまぎる雪のなべてふれれば
この哥は、ある人のいはく、柿本人まろが哥なり
335
小野たかむらの朝臣
梅花にゆきのふれるをよめる
花の色は雪にまじりて見えずともかをだににほへ人のしるべく
336
きのつらゆき
雪のうちの梅花をよめる
梅のかのふりおける雪にまがひせばたれかことごとわきてをらまし
337
きのとものり
ゆきのふりけるを見てよめる
雪ふれば木ごとに花ぞさきにけるいづれを梅とわきてをらまし
338
みつね
物へまかりける人をまちてしはすのつごもりによめ る
わがまたぬ年はきぬれど冬草のかれにし人はおとづれもせず
339
在原もとかた
年のはてによめる
あらたまの年のをはりになるごとに雪もわが身もふりまさりつつ
340
よみ人しらず
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
雪ふりて年のくれぬる時こそつひにもみぢぬ松も見えけれ
341
はるみちのつらき
年のはてによめる
昨日といひけふとくらしてあすかがは流れてはやき月日なりけり
342
きのつらゆき
哥たてまつれとおほせられし時によみてたてまつれ る
ゆく年のをしくもあるかなますかがみ見るかげさへにくれぬと思へば
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343
よみ人しらず
題しらず
わが君は千世にやちよにさざれいしのいはほとなりてこけのむすまで
344
渡つ海の浜のまさごをかぞへつつ君がちとせのありかずにせむ
345
しほの山さしでのいそにすむ千鳥きみがみ世をばやちよとぞなく
346
わがよはひ君がやちよにとりそへてとどめおきては思ひいでにせよ
347
仁和の御時僧正遍昭に七十賀たまひける時の御哥
かくしつつとにもかくにもながらへて君がやちよにあふよしもがな
348
僧正へんぜう
仁和のみかどのみこにおはしましける時に、御をば のやそぢの賀にしろかねをつゑにつくれりけるを見て、かの御をばにかはりてよみける
ちはやぶる神やきりけむつくからにちとせの坂もこえぬべらなり
349
在原業平朝臣
ほりかはのおほいまうちぎみの四十賀、九条の家に てしける時によめる
さくら花ちりかひくもれおいらくのこむといふなる道まがふがに
350
きのこれをか
さだときのみこのをばのよそぢの賀を大井にてしけ る日よめる
亀の尾の山のいはねをとめておつるたきの白玉千世のかずかも
351
ふぢはらのおきかぜ
さだやすのみこのきさいの宮の五十の賀たてまつり ける御屏風に、さくらの花のちるしたに人の花見たるかたかけるをよめる
いたづらにすぐす月日はおもほえで花見てくらす春ぞすくなき
352
きのつらゆき
もとやすのみこの七十の賀のうしろの屏風によみて かきける
春くればやどにまづさく梅花君がちとせのかざしとぞ見る
353
そせい法し
いにしへにありきあらずはしらねどもちとせのためし君にはじめむ
354
ふしておもひおきてかぞふるよろづよは神ぞしるらむわがきみのため
355
在原しげはる
藤原三善が六十賀によみける
鶴亀もちとせののちはしらなくにあかぬ心にまかせはててむ
この哥は、ある人、在原のときはるがともいふ
356
そせい法し
よしみねのつねなりがよそぢの賀にむすめにかはり てよみ侍りける
よろづ世を松にぞ君をいはひつるちとせのかげにすまむと思へば
357
内侍のかみの右大将ふぢはらの朝臣の四十賀しける 時に、四季のゑかけるうしろの屏風にかきたりけるうた
かすがのにわかなつみつつよろづ世をいはふ心は神ぞしるらむ
358
山たかみくもゐに見ゆるさくら花心の行きてをらぬ日ぞなき
359
夏
めづらしきこゑならなくに郭公ここらの年をあかずもあるかな
360
秋
住の江の松を秋風吹くからにこゑうちそふるおきつ白浪
361
千鳥なくさほの河ぎりたちぬらし山のこのはも色まさりゆく
362
秋くれど色もかはらぬときは山よそのもみぢを風ぞかしける
363
冬
白雪のふりしく時はみよしのの山した風に花ぞちりける
364
典侍藤原よるかの朝臣
春宮のむまれたまへりける時にまゐりてよめる
峯たかきかすがの山にいづる日はくもる時なくてらすべらなり
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365
在原行平朝臣
題しらず
立ちわかれいなばの山の峯におふる松としきかば今かへりこむ
366
よみ人しらず
すがるなく秋のはぎはらあさたちて旅行く人をいつとかまたむ
367
限なき雲ゐのよそにわかるとも人を心におくらさむやは
368
をののちふるがみちのくのすけにまかりける時に、 ははのよめる
たらちねのおやのまもりとあひそふる心ばかりはせきなとどめそ
369
きのとしさだ
さだときのみこの家にて、ふぢはらのきよふがあふ みのすけにまかりける時に、むまのはなむけしける夜よめる
けふわかれあすはあふみとおもへども夜やふけぬらむ袖のつゆけき
370
こしへまかりける人によみてつかはしける
かへる山ありとはきけど春霞立別れなばこひしかるべし
371
きのつらゆき
人のむまのはなむけにてよめる
をしむからこひしき物を白雲のたちなむのちはなに心地せむ
372
在原しげはる
ともだちの人のくにへまかりけるによめる
わかれてはほどをへだつとおもへばやかつ見ながらにかねてこひしき
373
いかごのあつゆき
あづまの方へまかりける人によみてつかはしける
おもへども身をしわけねばめに見えぬ心を君にたぐへてぞやる
374
なにはのよろづを
あふさかにて人をわかれける時によめる
相坂の関しまさしき物ならばあかずわかるる君をとどめよ
375
よみ人しらず
題しらず
唐衣たつ日はきかじあさつゆのおきてしゆけばけぬべき物を
このうたは、ある人、つかさをたまはりてあたらし きめにつきて、としへてすみける人をすてて、ただあすなむたつとばかりいへりける時 に、ともかうもいはでよみてつかはしける
376
寵
ひたちへまかりける時に、ふぢはらのきみとしによ みてつかはしける
あさなげに見べききみとしたのまねば思ひたちぬる草枕なり
377
よみ人しらず
きのむねさだがあづまへまかりける時に、人の家に やどりて、暁いでたつとてまかり申ししければ、女のよみていだせりける
えぞしらぬ今心みよいのちあらば我やわするる人やとはぬと
378
ふかやぶ
あひしりて侍りける人のあづまの方へまかりけるを おくるとてよめる
雲ゐにもかよふ心のおくれねばわかると人に見ゆばかりなり
379
よしみねのひでをか
とものあづまへまかりける時によめる
白雲のこなたかなたに立ちわかれ心をぬさとくだくたびかな
380
つらゆき
みちのくにへまかりける人によみてつかはしける
しらくものやへにかさなるをちにてもおもはむ人に心へだつな
381
人をわかれける時によみける
わかれてふ事はいろにもあらなくに心にしみてわびしかるらむ
382
凡河内みつね
あひしれりける人のこしのくににまかりて、としへ て京にまうできて、又かへりける時によめる
かへる山なにぞはありてあるかひはきてもとまらぬ名にこそありけれ
383
こしのくにへまかりける人によみてつかはしける
よそにのみこひやわたらむしら山の雪見るべくもあらぬわが身は
384
つらゆき
おとはの山のほとりにて人をわかるとてよめる
おとは山こだかくなきて郭公君が別ををしむべらなり
385
ふぢはらのかねもち
藤原ののちかげがからもののつかひに、なが月の つごもりがたにまかりけるに、うへのをのこどもさけたうびけるついでによめる
もろともになきてとどめよ蛬秋のわかれはをしくやはあらぬ
386
平もとのり
秋霧のともにたちいでてわかれなばはれぬ思ひに恋ひや渡らむ
387
しろめ
源のさねがつくしへゆあみむとてまかりけるに、山 ざきにてわかれをしみける所にてよめる
いのちだに心にかなふ物ならばなにか別のかなしからまし
388
源さね
山ざきより神なびのもりまでおくりに人人まかり て、かへりがてにしてわかれをしみけるによめる
人やりの道ならなくにおほかたはいきうしといひていざ帰りなむ
389
藤原かねもち
今はこれよりかへりねとさねがいひけるをりによみ ける
したはれてきにし心の身にしあれば帰るさまには道もしられず
390
つらゆき
藤原のこれをかがむさしのすけにまかりける時に、 おくりにあふさかをこゆとてよみける
かつこえてわかれもゆくかあふさかは人だのめなる名にこそありけれ
391
藤原かねすけの朝臣
おほえのちふるがこしへまかりけるむまのはなむけ によめる
君がゆくこしのしら山しらねども雪のまにまにあとはたづねむ
392
僧正遍昭
人の花山にまうできて、ゆふさりつかたかへりなむ としける時によめる
ゆふぐれのまがきは山と見えななむよるはこえじとやどりとるべく
393
幽仙法師
山にのぼりてかへりまうできて、人人わかれけるつ いでによめる
別をば山のさくらにまかせてむとめむとめじは花のまにまに
394
僧正へんぜう
うりむゐんのみこの舎利会に山にのぼりてかへりけ るに、さくらの花のもとにてよめる
山かぜにさくらふきまきみだれなむ花のまぎれにたちとまるべく
395
幽仙法師
ことならば君とまるべくにほはなむかへすは花のうきにやはあらぬ
396
兼芸法し
仁和のみかどみこにおはしましける時に、ふるのた き御覧じにおはしましてかへりたまひけるによめる
あかずしてわかるる涙滝にそふ水まさるとやしもは見るらむ
397
つらゆき
かむなりのつぼにめしたりける日、おほみきなどた うべてあめのいたくふりければ、ゆふさりまで侍りてまかりいでけるをりに、さか月を とりて
秋はぎの花をば雨にぬらせども君をばましてをしとこそおもへ
398
兼覧王
とよめりけるかへし
をしむらむ人の心をしらぬまに秋の時雨と身ぞふりにける
399
みつね
かねみのおほきみにはじめて物がたりして、わかれ ける時によめる
わかるれどうれしくもあるかこよひよりあひ見ぬさきになにをこひまし
400
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