第一回「芭蕉記念箱根俳句賞・西行記念箱根短歌賞」入選作者発表 

平成十五年四月二十九日

この度は多数の作品を応募いただき誠にありがとうございました。

主催=「芭蕉記念箱根俳句賞・西行記念箱根短歌賞」実行委員会

後援=読売新聞社 協賛=株式会社伊藤園 

協力=藤田観光株式会社箱根小涌園

歌人西行を生涯敬愛してやまなかった俳人芭蕉、そして東海道を往来した
歌聖・俳聖を記念し、世界の日本文化を箱根小涌園から発信する試みの
俳句・短歌の同時募集は、これまでにない画期的なものでした。それだけに
第一回にもかかわらず、俳句・短歌とも数多くの応募作品が寄せられました。
深謝いたします。
今後も「芭蕉記念箱根俳句賞・西行記念箱根短歌賞」をより充実させ、
バラエティのある内容にしたいと思っております。両賞の受賞者から新しい
時代の俳人・歌人が登場することを、選考委員ともども期待する次第です。

実行委員長 秋山巳之流

【応募総数】6390作品(俳句5640句、短歌1750首)

 それぞれ厳正な選考の結果、入賞四十三作品、佳作百四十二作品が決定されました。
入選の皆様おめでとうございます。

□ 第一回「芭蕉記念箱根俳句賞」・・・・・・・・・・・・・・・・・・前半

○ 第一回「西行記念箱根短歌賞」・・・・・・・・・・・・・・・・・・後半

□第一回「芭蕉記念箱根俳句賞」

【選考委員】
伊藤白潮・榎本好宏・藤田あけ烏・佐川広治・七田谷まりうす・
江口克彦・向田貴子・小橋久仁・寺島ただし・遠藤若狭男・
菊田一平・稲畑廣太郎

【選考総評】
第一回であり知名度もないのに応募総数が五千句を超えたことは、選考委員としても
張り合いがあり、選考にも力が入った。加えて、箱根で詠む、芭蕉にちなむ、といった
条件も重なり、選考の段階でかなりしぼらざるを得なかったこともあった。にもかかわらず、
いろいろな条件を満たした入賞句が選べたのは、応募者各位の質が高かったということだろう。
春から冬まで、季語は四季にわたっているが、上位に推された作品は春にやはり偏らざる
を得なかったようだ。それと固有名詞の使用が多くなったのも、こうした賞の性質上仕方の
ないことで、それらをクリアして、かなりの佳句が選べたことを、各位と共に喜び合いたい。
次回は更に盛大になることを願って。     
  

俳句選考委員長   伊藤白潮

   

・大賞一句〔賞状/副賞「箱根細工/箱根ホテル小涌園ペア招待券〕

頬白や早川に日のあふれをり  谷 雅子(東京都)

〔選評〕頬白は留鳥だが春を告げる季感があり、目の上の二条の白線が特徴で、
「一筆啓上、仕り候」などと聞きなされ、いかにも明るい声だ。
早川に溢れる日と相俟って見事に定着した。

・優秀賞一句〔賞状/副賞「箱根ホテル小涌園ペア招待券〕

春の山暮れて囲める芭蕉膳  細井紫幸(神奈川県)

〔選評〕ホテル小涌園の特別料理を即時に詠み込んで、
春の一夕をゆったりくつろぐ作者の心懐がいい。
思わず膳に載る品を聞きたくもなる一句だ。

・藤田観光賞1句〔賞状/副賞・椿山荘ペア食事券〕

ひめしやらの芽吹いてゐたる箱根越  谷 久子(徳島県)

〔選評〕箱根山中の芽吹きの季節、特に樹肌の白いしゃらの芽は美しい。
かなりの植物通の人の作である。下五の名詞どめも定まっている。

・読売新聞社賞一句〔賞状 副賞・図書カード〕

海賊船より大やんま上陸す  萩原たもつ(東京都)

〔選評〕芦ノ湖に浮かぶ観光船はよく知られるが、
人間よりやんまに目をとめたのが眼目だ。
大やんまだから鬼やんまで、海賊船とマッチしていることもいい。

・伊藤園賞一句〔賞状/副賞・ワシントンホテルペア宿泊券〕

山滴りて芦ノ湖の水位かな  牧タカシ(東京都)

〔選評〕山を伝い下りる地下水が地表に湧き出るのが滴りだが、
この句は、いかにも箱根らしい大景を描いている。
更に湖の水位にまで目を行き渡らせているのがすばらしい。

・秀逸賞一句〔賞状/副賞・B&Bパンシオン箱根宿泊券〕

蚊を打つて登山電車に隣り合ふ  窪田美里(東京都)  

〔選評〕実際に現地を訪れないと詠えないモチーフだろう。

隣りは夫婦でも家族の誰かでもいいが、庶民的な一景だ。

・奨励賞二十一句〔賞状/副賞・箱根ユネッサンペア招待券〕

□樹間より芦の湖見ゆる橇遊び 藤川三枝子(神奈川県)

□天高し箱根馬子唄風に乗り 山田照子(神奈川県)

□風光る湖へ艇庫の扉をひらく 六桐けい(京都府)

□柚湯よりかすかに聞こゆ戦唄 斎藤みさを(東京都)

□此の春も野晒し暮らし翁の碑 行方し乃(神奈川県)

□古文書の関所手形や鳥帰る 加藤しづか(千葉県)

□小涌園湯の香訪ねし寒雀 松谷忠和(山形県) 

□山椿湯煙りに紅映しをり 及川 洋(東京都)

□木の芽風箱根の関所抜けにけり 西澤ひろこ(東京都)

□笹鳴きて山に日差の戻りけり 藤田 夢(東京都)

□草枯れて日の暮れかかる駒ヶ岳 大野信子(埼玉県)

□虎落笛嶮に潜めるものの声 小川夕蛙(岩手県)

□海側の椅子に先客あたたかし 鈴木君子(神奈川県)

□手袋から手をとりだして箱根山 中江三青(鳥取県)

□丹の鳥居揺るゝ湖面やほとゝぎす 太田 梟(東京都)

□箱根山ひとを納めて眠りけり 秦 孝浩(千葉県)

□駅伝の野次馬となる二日かな 中川やよひ(東京都)

□山茶花をほめて親しくなりにけり 保泉一生(埼玉県)

□すみれ草ここは八里のどのあたり 山本 賜(東京都)

□幾何学の模様の箱にとじる夏 阪本明美(奈良県) 

□湯けむりの夜霧に変はる箱根かな 松沢季吽(京都府)

・佳作八十八句

〈優秀佳作九句〉

▽春浅し箱根の山の東(あづま)酒 丸亀敏邦(東京都)

▽夏帽子大きく振つて湖上の子 松木紫水(神奈川県)

▽花の下旅人二人すれちがふ 麻丘夏樹(千葉県)

▽??(まくなぎ)や芭蕉の来たる箱根みち 青柳冨美子(東京都)

▽箱根路は雪もまた良し小湧の湯 会沢優江(神奈川県)

▽駅伝に箱根の冬の順がある 西秋忠兵衛(千葉県)

▽とほき世の雪舞ひきたり関所跡 吉川弘子(神奈川県)

▽かいつぶり夕づく湖をひからせる 居駒 舞(千葉県)

▽−大文字−火の文字うすれ箱根の風涼し 細川普士子(東京都)

〈秀逸佳作二十句〉

▽名月や箱根十七湯を照らす 鈴木芙仁男(東京都)

▽駅伝を待つ間に交はす御慶かな 有永吉伸(埼玉県)

▽ちょっとだけ箱根駅伝伴走す 朝原弘毅(福岡県)

▽山葵田の水の落ち合ふ春隣 高橋宏和(埼玉県)

▽木の洞に青きものあり春きざす 松原百烟(東京都)

▽春なれやきゆるるんと開く寄木箱 荒井八雪(神奈川県)

▽風花の仙石原の明るさよ 奥野周子(神奈川県)

▽旧道の朴の芽吹きの風にゐる 名和未知(東京都)

▽逆さ富士見て福詣終りけり 志村宗明(神奈川県)

▽切り株の囲んでゐたる蝌蚪の水 岩淵喜代子(埼玉県)

▽料哨や湯の滾りたる二ノ平 三浦光子(東京都)

▽湯けむりの箱根八里は雪景色 南田三枝子(神奈川県)

▽湯けむりとうかれ猫とに迎へられ 山口早苗(千葉県)

▽墨色の温泉たまご山眠る 鈴木知八子(千葉県)

▽寒月や外湯めぐりの下駄鳴らし 池内英夫(神奈川県)

▽正面に小涌谷あり秋扇 青木まさ子(東京都)

▽元朝の湖光の鳥居くぐりけり 小川江実(千葉県)

▽外湯まで母をおぶえば牡丹雪 鈴木吉保(愛知県)

▽芦の湖の降るともなしに春の雨 江口来童(神奈川県)

▽湯けむりをまるくあつめし春の月 高林笑夢(東京都)

〈佳作五十九句〉

▽囀りや箱根路を子に手引かれて 多々良友彦(静岡県)

▽温泉(ゆ)に消ゆる雪のひとひら夕霧忌 遠藤千鶴羽(東京都)

▽啓蟄や大涌谷の人となる 大見川 明(神奈川県)

▽春光やいのちふたつに杉大樹 箭内 忍(東京都)

▽関跡の千人溜り風花す 平林恵子(神奈川県)

▽芭蕉句碑欠けしがままに長閑なり 新地 玲(東京都) 

▽小涌谷まだ囀りの届かざる 桑島禎夫(東京都)

▽二ノ平より春昼の山を見る 丹生谷貴司(神奈川県)

▽天地のあはひに二子山朧 柴田孤岩(東京都)

▽登山先づ大権現の鈴を振る 佐藤古城(埼玉県)

▽芦ノ湖へ未明の空をきぎす鳴く 湯浅康右(千葉県)

▽寒明の硫黄にむせぶ力石 石川みさ子(千葉県)

▽残雪や延命といふ黒玉子 角田悦子(神奈川県)

▽如月や宿の玉子のくろがねに 矢田 良(東京都)

▽春の風御関所越ゆる手形かな 御園生眞徳(東京都)

▽木漏れ日のうらゝかになり旧街道 竹本 悠(東京都)

▽噴水の芝庭歩む美術館 鈴木勇一(埼玉県)

▽万緑や雲を払ひし駒ヶ岳 長谷川孝子(東京都)

▽箱根路や春の稜線まなかひに 馬場公江(東京都)

▽妻と来て小涌大涌雪解晴 櫻井幹郎(愛知県)

▽出女の嘆きの声や蝉時雨 阿部文彦(神奈川県)

▽芭蕉忌や箱根路を行く雨合羽 五十嵐 勉(大阪府)

▽峠路は富士を真近に犬ふぐり 澤田洋子(神奈川県)

▽浴衣着て子の諳ずる十六湯 安達秀幸(東京都)

▽風神の春駆け抜けて箱根山 小澤房子(東京都)

▽探梅や足跡つなぐ翁の句 岡 白雲(東京都)

▽箱庭の仙石原でありにけり 秋田春風子(神奈川県)

▽雨あをき箱根権現芽の輪立つ 石井時江(東京都) 

▽海光を返し岨道石蕗は黄に 布施和代(千葉県)

▽初冠雪の富士に手鏡程の湖 久保砂潮(千葉県)

▽芭蕉忌や登山電車を途中下車 良知悦郎(千葉県)

▽雪催行きも帰りも箱根越え 後藤田稚幹(大阪府)

▽湯の宿に小さき祠鳥帰る 小野京子(京都府)

▽初富士や本丸跡も馬止も 金久保悦子(東京都)

▽遊覧船たつぷんゆれて春の波 田中丸木の葉(東京都)

▽一慶事ありて温泉(ゆ)宿の梅椿 西尾澄子(大阪府)

▽霧晴れて大涌谷はなほ煙り 池田晩成(神奈川県)

▽秋風や箱根番所のおどし面 富永浄子(茨城県)

▽探梅の声降りてくる箱根山 古屋牧男(山梨県)

▽虎ヶ雨芦の湖晴れてゐたりけり 岡田貞二(神奈川県)

▽翁忌を修して箱根しぐれけり 伊藤 淳(三重県)

▽鴨の陣海賊船と対峙せり 鈴木三光子(東京都)

▽彫刻の森に鐘鳴る暮春かな 安部由美子(千葉県) 

▽富士さらに大きくなりし秋の暮 阿部浩然(神奈川県)

▽秋深し旧街道に佇てばなほ 砂田怜子(北海道)

▽ロープウェイに手を振り合つて夏終る 永松東興(埼玉県)

▽早雲寺入道雲を招き入れ 小竹竹風(東京都)

▽箱根路や滴る山を打重ね 山岸二郎(神奈川県)

▽箱根路の花の遅速を諾えり 岡本とも子(高知県)

▽十郎か御前のものか落し文 田村正二(埼玉県)

▽参勤の足音きこゆ杉落葉 斉藤諄一郎(神奈川県)

▽逃水のもう逃げられぬ地獄谷 不破元之(富山県)

▽箱根路を傘傾けて広重忌 白根はる女(神奈川県)

▽絵日傘に天を回して箱根ゆく 金栗木曽(熊本県)

▽名の高き関所の跡や鎌鼬 竹澤 聡(神奈川県)

▽早雲寺ヒメハルゼミの声響く 角田芙美子(栃木県)14歳

▽ロープウェイから下を見たら雪がある 皆川拓也(神奈川県)12歳

▽ろてんぶろぼくのあたまにおちるゆき 石橋卓也(東京都)8歳

▽こうようにすいこまれそうはこね道 松田晴菜(東京都)7歳 

                  

○第一回「西行記念箱根短歌賞」

【選考委員】
田村広志・成瀬 有・御供平佶・花山多佳子・加藤英彦・内藤 明・
中川佐和子・佐々木六戈・東 直子・森本 平

【選考総評】
第一回・西行記念箱根短歌賞の応募作品は力作揃いでした。遠くアメリカからの
応募も含め、総数一七五〇余首あり、十分優れた作品が寄せられました。
各受賞作品は選評にゆずり、ここでは総評を簡単に印しておきます。応募作品は、
歌人西行と、箱根という地名をかなり意識され、その人名、地名を詠いこんだ力作が
ありました。この短歌賞の趣旨をよくご理解いただきました。たくさんの優れた作品応募に
感謝いたします。

   短歌選考委員長 田村広志   

・大賞一首〔賞状/副賞「箱根細工・箱根ホテル小涌園ペア招待券」

箱根山露台(テラス)の向こう一群れの獣のように白霧(しらぎり)迫る  伊藤裕司(東京都)

 〔選評〕「獣のように」という四句の把握が、
力強く箱根の霧を捉えている作品として、大賞にふさわしいと評価された。

・優秀賞一首〔賞状/副賞「箱根ホテル小涌園ペア招待券〕

これよりは天と言ふがに山雀は登るゴンドラの屋根を離るる  矢部しいん(神奈川県)

〔選評〕「これよりは天」という把握が面白く
山雀がゴンドラを離れる姿を巧みに捉えた、緻密な言葉の作品として評価された。

・藤田観光賞一首〔賞状 副賞・椿山荘ペア食事券〕

暁に繭に籠りし夢見れば朝のホテルのサラダ菜眩し  渡辺二三雄(東京都)

〔選評〕「繭に籠りし」の二句目が美しい作品であり、
朝の「サラダ菜」という場面で、その夢を捉え巧みな作品であり、
歌のおさめ所をよく知っている。

・読売新聞社賞一首〔賞状/副賞・図書カード〕

まつすぐに湯気がのぼりてゆく空に温泉の湯の力をおもふ  高橋美香(神奈川県)

〔選評〕下二句、とくに「温泉の湯の力」という単刀直入に捉えたことが
いかにも温泉の力を感じさせる。「おもふ」は少し弱いのでは、との意見も出された。

・伊藤園賞一首〔賞状/副賞・ワシントンホテルペア宿泊券〕

夏帽子かぶりて箱根の山越ゆる偉丈夫あらば西行ならむ  麻丘夏樹(千葉県)

〔選評〕「箱根」と「西行」を「偉丈夫」という言葉で結びつけ、
漂泊の歌人西行の歩みを、彷彿させる。
ややこの三つの言葉が即きすぎという意見も出た。

・秀逸賞一首〔賞状/副賞・B&Bパンシオン箱根宿泊券〕

軍馬の秣刈りしなだりを青萓の風颯と吹く十国峠  西嶋法子(千葉県)

〔選評〕五十年前の戦争の「軍馬の秣」を刈った体験を現在にひきつけ、
回想が「青萓」と「十国峠」の言葉によって、よく生きた作品として評価された。


・奨励賞十首〔賞状/副賞・箱根ユネッサンペア招待券〕

○昼の日が山に隠るるバス停にわれは見知らぬ人と居りたり 松本ああこ(東京都)

○神山の方位違はず島渡る声しばらくは空に満ちゐて 六桐けい(京都府)

○スイッチバック繰返しつつなほ登る登山電車よ天までのぼれ 大島すみ子(神奈川県)

○江戸の世の人馬に磨りし石畳ふめば足裏(あうら)に春満つるおもひ 有永吉伸(埼玉県)

○おそろいの杖を購ふ義母と母大涌谷を喜々と跳ねゆく 西尾敬子(千葉県)

○はればれとみな赴任地へ発(た)ちてゆく研修終へし箱根の町を 皆川芳彦(東京都)

○霧のせいかもしれなくて立ち止まる 君の背中がとても遠いよ 川谷ゆき(大阪府)

○ぐいぐいと往路のランナー近づけばぐっとアップの箱根の町筋 谷光順晏(千葉県)

○新春の風として過ぐ選手らにちぎれるほどに紙の旗ふる 田中千恵子(神奈川県)

○湿原のつめたき水に手をさらす山の底よりわれに湧きたり 森川多佳子(東京都)

・佳作五十四首

▽山里に共に生きいる心地して野鹿に「ハロー」と声かく朝(あした) 西岡徳江(USA)

▽ふくろうの数も減りたり箱根路にランプ灯りし頃をわれは知る 保泉一生(埼玉県)

▽空よりも空を写せる早川の水に揺れをり光の春は 清水矢一(兵庫県)

▽繋舟の未だ醒めやらぬ芦ノ湖に引く鳥はやも身繕ひをり 斉藤譲一(愛知県)

▽蕎麦(そば)刈りて腰をおろせる老いを染め箱根の山に夕陽落ちゆく 草野正信(新潟県)

▽芦ノ湖に群れる釣り舟シーバスを釣り上げるごとに歓声のわく 阿武世音子(東京都)

▽友よりの寒中見舞いの入浴剤「箱根の湯」うれしき介護者われに 佐藤節子(徳島県)

▽牌楼の影のびてくるテーブルに疎開の昔かたりてゐたり 高橋旭兵(秋田県)

▽ふる里を一目見たしと母の言ふ十国峠に駿河の青く 中野りりあ(神奈川県)

▽弟が選んだ象の木のパズル今もどこかにあるのだろうか 江森つゆ草(埼玉県)

▽芦ノ湖のあをき水分け行く船にわれら若やぎ風うけて立つ 前川久宣(石川県)

▽スワンとふボート泳がす芦ノ湖に老いもむかしの恋なぞりゆく 阿部和子(神奈川県)

▽姉逝きて箱根細工の匣(はこ)ひとつひらくすべなく子に残されぬ 宮代健(千葉県) 

▽「二日ほど出家します」と有髪の今西行は湯行(ゆぎょう)にゆけり 郡司園子(東京都)

▽体内に滞りしもの燃やすごと大涌谷に無尽の煙 三吉 誠(福岡県)

▽いつの間に時は過ぎたり思ひ出を寄木細工の箱にしまひぬ 中川美穂(徳島県)

▽お土産のからくり箱を開ける時隣りの我を見る吾子の顔 羽角和子(山形県) 

▽不器用に老いをかさぬるわれと妻水漬く鳥居の朱を見つめゐつ 小川潤治(埼玉県)

▽富士山と笑顔と風にいやされて明日も元気に生きていこう 福井さと子(東京都)

▽芦ノ湖に失恋の石一つ投げ私の人生進化と思ふ 広岡梅生(三重県)

▽フルムーンの宿と決めゐし小涌園窓べの風に聞く亡妻(つま)の声 西森茂夫(石川県)

▽ゆく春の修学旅行の芦ノ湖の君の笑顔を今も忘れず 岡部範義(茨城県)

▽いっせーのせっと売り子は息を止め煙の中を小走りに行く 久米 貴(東京都)

▽湯になじむ肩にかけては時を喰み胸にかけては明日を見る暮れ 金田正太郎(青森県)

▽箱根路を八里越えゆく馬子の唄遠く偲ばる今日の甚雨(ひさめ)に 山田勝見(神奈川県)

▽彫刻の森にただよう静寂に深呼吸して我と向きあう 渡辺亜希子(山梨県)

▽神山を仰いで神の湯につかり神にはなれぬ身を慈しむ 舟橋剛二(静岡県)

▽買いもどす山の明るさ境木(さかひぎ)は中風(ちゅうふう)に病む父が植えたる 大野裕子(埼玉県)

▽幼き日土産にもらいし細工箱礼言わぬまま五十年を過ぎ 山崎展代(福岡県)

▽箱根路のゆるやかな丘下り上り作品に会う彫刻の森 橋本典子(神奈川県)

▽芦ノ湖の生みし霧にて紡ぎたる銀糸で結ぶふたりの小指 富岡 雅(大分県)

▽もう雪がとけてゆきます結晶の確かに重なり合ひし昨日 かとうさきこ(千葉県)

▽箱根にて聞きしスイッチバックなる言葉を五十路の自戒としたり 安達秀幸(目黒区)

▽うすあかり根を張る木々の箱根山小さき我に背延びうながす 近藤昭子(長崎県)

▽箱根路は富士仰ぎつつ湯けむりに一生分の幸(さち)頂けり 福田春子(兵庫県)

▽照明に映えては消えるあじさいの妖しいさまに車窓がゆれる 小林千恵子(東京都) 

▽小雪舞ふ賽の河原におり立てば木枯らし悲し子の泣く声に 阿部文彦(神奈川県)

▽農継ぐと決めたる孫が高校より帰りて冬の田を鋤きはじむ 立杭溢身(兵庫県)

▽風凪ぎて真白く小さき富士見ゆる箱根あまねく冬日光れり 吉岡泰三(新潟県)

▽遠き日のヴェニスに生れしガラス等の箱根の森に時雨を聴くか 永松東興(埼玉県)

▽夕映えの桃源台の店頭に素焼きの皿が光を湛ふ 佐藤宣行(東京都)

▽金属音残して上るケーブルカー樹間に聞こゆ鶯の声 北村純一(神奈川県)

▽新緑をめでて湯あみのしざんまい風の神やら土の神やら 卜部美恵子(北海道)

▽箱根路を越えて紅色あると云い嫁ぎたる娘は音沙汰もなく 小野ふみ(茨城県)

▽年老いてベッドの寝起き浮き世ならもう飽き飽きと月に言いけり 矢田谷仁三郎(石川県)

▽剣道のここぞと決めた勝負どき魂こめて一刀両断 早津寿勝(神奈川県)18歳

▽透明に液化していく初雪の白色ありき箱根の山に 萩原慎一郎(東京都)18歳

▽日がのぼり冬の紅葉に山光るどこまで続く空といっしょに 坊田裕美(東京都)16歳

▽「大人だ」といい張る私に母は言う「いくつになっても私の子供」 尾上絢子(愛媛県)14歳

▽雪がふり夜の景色がきわだてば思わずみとれる夢にでてくる 坊田愛莉(東京都)13歳

▽温泉に入ればみんな幸せだ入りすぎには注意だけど 小山沙織(神奈川県)13歳

▽人にふれ心温まる箱根の地おいしい空気潤う緑 岩田怜子(埼玉県)13歳

▽梅の花母と歩くとにおいつき足かろやかに石だたみゆく 斉藤一茂(東京都)11歳

▽とんねるのけいこうとうのそのしたにこっそりあるよひみつのはこね 岡崎佑哉(東京都)6歳

                                    

                  

WEB・TOP